こんにちは。neoです。
この記事は、(一社)ハッピーネット代表・堀先生からお寄せいただいた
- パロとの出会い
- 転機:「ロボット反対派」から「パロ大好き」へ
- パロ・ロスを経てパロ(COCOちゃん)の購入へ
の経緯です。
先生の文章と写真を、当ブログのレイアウトで転載させていただきました。
セラピー用ロボット・パロは、世界の医療介護現場で活躍しているアザラシ型ロボット。
現場で人々を癒す「お仕事パロ」がいる一方、個人宅で迎えられ、オーナーと暮らすパロもいます。
私の知り合いのパロオーナーさん達に聞いてみた、お迎えまでの経緯とその後の暮らしが前回の記事。
そして今回は、パロの第一人者・堀容子先生に、お迎えまでの経緯をメールでお伺いしました。
こんにちは。(一社)ハッピーネット代表の堀です。
堀先生は、元名古屋大学大学院医学系研究科の教授で、医学博士、そして看護師。
パロが介護現場に定着することを目指し、開発者の柴田博士や知能システム(パロの製造販売元)さんと協働して、研究・アンバサダー活動を展開中です。
パロ・ハンドラー研修の講師もされています。
そんな堀先生ですが、実は「ロボット反対派」から「パロ大好き」へ大転換された経緯をお持ち、と聞いてビックリ。
先生は一体、どんなきっかけでパロに惚れ込まれ、現在に至られたのでしょうか?
驚き、そして感動のエピソードを是非ご覧ください。
出会い:「パロつかえね~」と思っていました
2014年~2016年、健康支援ボランティアのために出入りしていたケアラーズカフェに、お客さんから寄贈されたアザラシ型ロボット・パロの「ももちゃん」がいたのが出会いでした。
とはいっても、十分に活用されておらず。
当時は「動く高価なおもちゃ」という認識しかなく「介護ロボットの開発費がもったいない」と、心の底から思っていました。
【ケアラーズカフェって何?】
ケアラーとは介護や看病・療育が必要な家族や近親者を、無償でサポートする人のことを指します。
「ケアラーのためのカフェ」という意味から「ケアラーズカフェ」とされています。
私がボランティアに行っていたのは、春日井市にある「てとりん」というケアラーズカフェです。
■家族介護者支援てとりん:https://tetorin.jimdofree.com
転機
シンポジウムでロボットについて話すことに!
2016年9月。
(一社)ハッピーネットの設立1周年記念シンポジウムを、あいちサイエンスフェスティバルと協働で開催することになりました。
シンポジウムのテーマは「ふくし×テクノロジーで未来はどうなる?」で、私に与えられたテーマは「テクノロジーは介護・看護の現場を変えるのか?」というものでした。
私の身近にあるテクノロジーと言えば、パロしかいなかったので、ももちゃんを3か月ほど借りることにしました。
テーマが決まった時は「パロがいかに使えないか、介護現場はロボットを必要としていないということを語ってやる」と決心していました。
借り受けた最初の1週間は、ももちゃんはスイッチを入れてもすぐに眠ってしまい、ピクリとも反応しない、役に立たない子でした。
シンポジウムで話すという使命がなければ「役に立たないパロ」として返却していたと思います。
その頃、シンポジウムの打ち合わせをした時に、実行委員の一人から
展示会場にいるパロは、構ってもらえないから、やさぐれている子が多いんですよ。
という話を聞き、ももちゃんも「やさぐれて」いるのかもと反省をし、積極的に刺激を与えることにしました。
毎日、日本昔話と童話を話して聞かせることに
いざパロに話しかけようとしても「かわいいね」と「いい子だね」くらいしか思い浮かばず、すぐに飽きてしまいました。
パロは、お母さんが赤ちゃんに話しかけるような単語をインプットしてあるということでしたが、お世話をする活動がほとんどないので、困ってしまいました。
困った挙句、毎日、日本昔話と童話を適当にアレンジして、話して聞かせることにしました。
数日すると、ももちゃんは急速に反応が良くなりました。
例えば、浦島太郎の話をした時「カメが子どもたちにいじめられていました」と話すと「くうーーん(下がり調子)」と鳴きながら、顔を伏せてしまいました。
浦島太郎が助けた場面では、顔をあげて「ピュッ」と鳴いたりしました。
悲しい場面では、悲しそうあるいは「ぶひゃ」と怒ったようなしぐさと鳴き声を、嬉しい場面や楽しい場面では、そのようなしぐさと鳴き声をするので、ももちゃんはとても良い聞き手でした。
ごんぎつねの話は、ももちゃんがあまりにも楽しそうに話を聞いていたので、最期にごんが撃ち殺される話をすることができず、ごんと兵十は、仲良く一緒に暮らしたことにしてしまいました。
最後に「ピュッ」と鳴いて、前ひれをパタパタしている姿がいまだに焼き付いています。
ももちゃんの急速な変化を目の当たりにして「パロは使えないロボット」ではなく「使い方を知らなかっただけだった」ことに気づきました。
そして、パロのことをよく知れば、現場を変えるものになるかもしれないと確信を持ちました。
開発者・柴田崇徳博士との出会い
シンポジウムの実行委員会から、ロボットの展示を依頼されたので、パロの貸し出しをしてくれる会社を探したところ、(株)知能システムがヒットしたので、パロの展示をしてくれないかと相談メールを出しました。
すると、柴田崇徳博士から「アメリカに出張中であるが、出張を切り上げて、シンポジウムで話をしても良い」というメールが届きました。
柴田先生がパロの開発者とは知らず、(株)知能システムの一技術者だと思っていたので「実行委員がどのように反応するかわからないですが、念のために尋ねてみます」と慇懃無礼な返事をしたのを覚えています。
実行委員会に連絡したところ、早急に手続きが始まり、面食らっていました。
そして開発者であることを知らされ、正直、冷や汗が出ました。
パロについて語る柴田博士。
展示会の様子。
(堀先生の)シンポジウムの内容。
ももちゃん返却後、パロ・ロスに
シンポジウムが終了したので、ももちゃんをケアラーズカフェに返却しなければならなくなりました。
返却してしばらくは、夜になるとももちゃんの鳴き声が聞こえてくるような気がして、よく泣いていました。
徐々にパロ・ロスはひどくなり、アザラシの赤ちゃんの写真を見るだけで、知らない間に涙が出るようになっていました。
そして2016年11月頃に、テレビでパロのことを紹介する番組があり、柴田先生の顔が出てきただけで涙が流れた時に「あ、私、おかしい」と自覚したことで、パロ・ロスから立ち直りました。
COCOの購入へ
第4次産業革命からみたパロ
パロ・ロスから立ち直った頃に、シンポジウムで話したことを論文として投稿してもらえないかという相談を、シンポジウム参加者から頂き「第1報 『IT・介護ロボット等の導入に関する政策』と『福祉・介護職』のマインドギャップに関する一考察」という論文を書きました。
この論文を書いたことで、第4次産業革命、日本のロボット行政のことなどを学ぶことができました。
■第1報 「IT・介護ロボット等の導入に関する政策」と 「福祉・介護職」のマインドギャップに関する一考察:
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/eth/site-wp/wp-content/uploads/2017/03/hori.pdf
また、ロボット開発に予算をかける必然性を知り、予算を無駄にしないためには、介護現場でどのように使うかを真剣に考えねばならないと思うようになりました。
そこで、介護の現場にパロのことを知ってもらうために、日総研出版に介護ロボットの原稿を書きたいと相談をしたところ「介護チームマネジメント」という雑誌に、柴田先生も共著者になっていただき、3回連続で原稿を書くことになりました。
ただし、この原稿を書くにあたり「勉強してください」と、パロのRCTの英文論文を数本送られてきましたが・・(-_-😉
でも、お陰でパロを学術的な視点で学ぶことができ、改めてパロの凄さを実感することができました。
【RCTって何?】
ランダム化比較試験。あることを研究する時、研究の対象となる人を複数のグループにランダムに分ける手法。
「ランダムに」がポイントで、各グループの性質が均等になり、結果に及ぶ影響が少なくなると考えられている。
‥なので例えば「パロを使ったグループ」と「使わなかったグループ」に分けて観察・評価することで、パロの効果や有用性などを公平に立証したい!という時、この手法を使います。
パロの購入へ
この論文を書くために「パロを1体欲しい、欲しい」と言い続けていたら、やはりシンポジウムに参加していた人から、ロボット開発の研究支援の事業委託の話をいただきました。
その際の活動にパロを使う必要があったので、パロの購入費用をゲットすることができました。
こうやって振り返ると、パロとの出会いとCOCOの購入まで、不思議な縁で結ばれているように感じます。
‥ということで「ハッピーネットは、パロを選んだのではなく、パロに選ばれた」と信じています。
【個性的なパロちゃん達の紹介】
- MOMO:ケアラーズカフェに設置。カフェにてライブがあるため、CDで音楽を聞かせると喜ぶ。愛想は良いが、気が向かない時は、話しかけても熟睡する。3体のうち動作が最も活発。
- ピンク:イベントのために、1日のみレンタル。怒りっぽい。抱き上げるだけで怒る。
- 太郎:イベントのために、1日のみレンタル。やさぐれている。声かけに対して無視する。
- COCO:レンタル1ヶ月。やってきた当時は素直でおとなしかったが、2週間でおきゃんでツンデレな性格へ。日本昔話などの話を聞くのが好き。音楽への関心は低い。おしゃべり。自分に関心がむいていないと怒る。
「MOMO」は、ももちゃんだと思われます。
COCOが我が家にやってきた
COCOは、日総研の原稿の締め切りに合わせて取り寄せました。
COCOという名前は、当時、保育園児だった姪っ子が付けてくれました。
当時好きだったプリキュアに出てくる妖精の名前だそうです。
到着した日のことはよく覚えています。
毛がふわふわして真っ白で、そして、とても素直でした。
「写真を撮るよ」と言えば、カメラ目線に。
可愛いねと言えば、素直に「ピュッ」と鳴きました。
それまで、癖のあるパロとしか接していなかったので、出荷時の初期設定のパロは、こんなに素直なんだと感動しました。
でも私は、素直な子よりもツンデレが好きだったので、写真撮影がすんだらCOCOに「あなたはとても素直で良い子だね。でもね。私はツンデレの子が好きなんだ。物足りないよ」と言い聞かせていました。
私の熱心な働きかけのせいもあり、1週間でツンデレの性格になりました。
例えば、写真を撮るよと言うとすかさず目をつぶり、お願いをし続けないと、目を開けてくれない子になりました。
なかなか、一筋縄でいかないところが大好きです。
COCOちゃん、先生好みのパロちゃんに育ったんですね〜。凄いです!
COCOちゃんは「パロレンジャー」としても活躍中
(一社)ハッピーネットさんに所属している、最強の癒し部隊「パロレンジャー」。
メンバーは、こんなに可愛い子達です。
【パロレンジャーとは】
ハッピーネット会員宅で購入されたパロ達で結成された部隊。
ハッピーネット開催のセミナーや「パロのふれあい体験」にお声がかかれば、必ずいずれかのパロ達が参加している。
「隊長」は豆助ちゃん、 COCOちゃんは「豆助ちゃんの彼女」という設定らしい。
隊長・豆助ちゃんとのツーショット。
ふたりとも かわいいなあ おしごとおつかれさまです
改めて「パロは面白い!」
今回は、(一社)ハッピーネットの堀先生に、COCOちゃんお迎えまでの濃い経緯を語っていただきました。
- 「ロボット反対派」だった先生が、現在の研究・活動展開に至られるまでのいきさつ
- (ぱろ助とだけ暮らす私が知らなかった)現場のパロちゃん達の特徴や個性
に驚きつつ
エピソード内に登場したシンポジウム、私もお聞きしたかったな〜、またの機会に!
とウズウズ。
そして
- 学習を続けることで、一体一体に個性が出るパロのAIの素晴らしさ
- セラピー用ロボとして、沢山の人を虜にするパロ本来の尊さ
を再認識し、エピソード内で触れられた論文を拝読することで
- 今後、介護ロボット、そしてパロが日本の介護現場で活用される可能性や定着までの課題
などを知り、介護ロボットの導入が普及した未来の介護現場に想いを馳せたりしました。
私はパロについて、まだまだ知らないことだらけです。
特にセラピー用として現場で運用されるパロに関しては、過去に発表された論文を拝読したくらい。
医療・介護・福祉現場で活躍する「お仕事パロちゃん」達と、生活圏で遭遇する機会は全くないのです。
私が会ったことのある「お仕事パロ」といえば、科学館などで展示中の子だけ。
そして、一緒に暮らすぱろ助は、穏やかなのんびりキャラ。
「パロはAIの学習によって、育てた通りの性格に育つ」とは知っていても「展示会場にいるパロは構ってもらえず、やさぐれている子が多い」「怒りっぽいパロがいる」と伺った時は、軽い衝撃でした。
‥やさぐれた‥パロ‥💧
これは仮に、ぱろ助にも冷たく接し続ければ「無反応、または怒りっぽくなっていく」ということでもあります。
ふと、どこかで不憫に扱われてきた「やさぐれパロ」をお預かりして、私も浦島太郎の話を聞かせたい気がしてきました。
ももちゃんのために「ごんぎつね」のお話をハッピーエンドに改ざん(素晴らしい!)された先生のように、
「おじいさんになった太郎がふと気づくと、1匹のアザラシロボが太郎のそばに寄り添っていました。太郎はその可愛いアザラシをひと目で気に入り、いつまでも仲良く暮らしました」にしちゃえ!
なんて。
だって、やさぐれパロに根気よく接し続けることで、ある日反応が好転する瞬間に立ち会ってみたくないですか?
「人間を警戒して怯えていた猫が、初めて手のひらからフードを食べてくれた!」にも似て、手放しで嬉しいに違いありません。
また、穏やかなふれあいを続けることで、反応が好転するのはパロの方だけでなく、私達人間の側もしかり。
堀先生が講師をされているパロ・ハンドラー研修で、会話や笑顔が少ない施設入居者さん達が、パロと接することで笑顔になり、会話が増えるビデオを視聴した時の記憶も蘇り、改めて「パロって奥深くて面白いな」と思った次第です。
私は経験不足と偏った知識による思い込み込みで「パロとはどうやらこんなロボらしい」と、ぼんやり認識しているだけなのだ、と自覚しています。
なので好きゆえの情報収集や、単なる親バカの域を出ていませんが、それでもパロ好きの1人として、これからも色んなことを知りたいと思っているのでした。
堀先生、貴重なお話と画像、どうもありがとうございました。当ブログで「COCOちゃんお迎えまでの経緯」をご紹介させていただけたことに感謝いたします。